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だれのための能なのか(1) |
文字ばかりの固い内容で、サイズも決して軽いとはいえない当ホームページにご来場頂 きましたこと、厚く御礼申し上げます。 構想から三年、周囲の人からは変人扱いされ、家族からは呆れられ、しかもデータの消 失や度重なる仕様変更といった紆(う)余曲折の末に、ようやく形らしくなりました。 そこでこの場を借りまして、当ホームページの特徴を述べさせて頂きたいと思います。 貴重なお時間を頂戴して恐縮ですが、当ホームページをご活用頂くための一助にもなる かと思われますので、ぜひご一読ください。 |
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私はこの十年、親戚縁者から友人知人に至る まで、のべ五十人以上の人たちを能楽堂に招待 しました。 その中で「また能を観てみたい」と言ってく れたのはたったの二人。それも最近になってか らのことで、他からは今日に至るまで、「また 能を観に連れていってくれ」といった類の言葉 を聞いていません。 中には「能」という単語を口にするだけで、 絶交になりそうな友人もいるほどです。 なぜ、そこまで能が嫌われたのか、理由は単 純です。分からないから苦痛なのです。 高尚な伝統芸能を堪能するのだと、期待して 能楽堂に足を運んだものの、いざ開演してみれ ば何を言っているのか、何をやっているのか、 さっぱり分からない。 入口でもらった式次第の簡単なあらすじを頼 |
りに、想像力をたくましくしても、やっぱりダ メ。動きは少ない、時間は長い。座っているだ けで疲れを感じ、そのうち睡魔も襲ってくる。 眠気と格闘しながら周りを見れば、息を凝ら して舞台を観る人の姿に、「ああ何と自分は頭 の悪い、低俗な人間か」「ここは自分ような人 間が来る場所ではなかった」と自己嫌悪と後悔 の念もふつふつ。 しかもそのことを終演後、招待した人間に正 直に告白しようものなら、「感性が足りない」 「抽象画と同じで素直に感じればいいのだ」と、 追い討ちをかけられる始末−−。 以上は反省を込めた私の体験ですが、初めて 能を観た人は、多かれ少なかれこんな経験をな さっているのではないでしょうか。私自身もそ うでした。 + |
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能が分からないのは、頭の良し悪しや感性の 問題ではありません。知識の問題です。 能は映画や現代劇などと違い、事前の知識を 必要とします。 どんな知識かというと、登場人物の役割から 始まって、舞台の名称、決り事、流派、謡、仕 舞、拍子、囃子、面、装束、演出、構成、特殊 演出、演目、出典、歴史……など、数え上げて もキリがありません。各項目だけでいくつも本 が書けるほど広く、深いのです。 能を趣味にし、より深く観賞したいと考える 人の多くは、自ら謡や仕舞の稽古を通し、また、 いろいろな書物を通して、上記のような知識を 徐々に増やしていきます。だからこそ、舞台を 見て”分かる”のです。 一方、能を”楽しむ”というのは、”分かる” のとは別で、共感できるかどうかの問題ではな いかと思います。能楽堂には外国の方もいらっ |
しゃいますが、さして苦痛を感じておられるよ うには見えません。 それは言葉を越えた部分で共感できるものを お持ちだからでしょう。 例えば能の様式を自国の文化と比較するとか、 バレエや彫刻に精通した人であれば、舞を舞踏 的要素で、能面を美術的要素で分析なさってい るのかもしれません。 いずれにしても、能そのものの知識を必要せ ず、能を楽しむことはできるのです。 ただし、これは私のような海外の文化にも、 他の芸術にも疎い人間には、ちょうど辞書も日 本語も使わず、ネイティブスピーカーの発音だ けで外国語を勉強しなさいといわれているよう なもので、辛いことこの上ありません。 やはり、そこには言葉による理解(認識)が ないと、ストレスがかかってしまいます。では どうするか。 |
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結論を言えば、私は能の演劇性だけを楽しむ のであれば、必要最低限のあらすじと、洋画の 字幕に当たる現代語訳があればいいと思ってい ます。 あらすじによって今、何をやっているのかを 知り、現代語訳によって今、何を言っているの かを知る。このことで舞台に共感することがで き、大半の能は楽しめるでしょう(楽しめる度 合いは、それこそ演目の好き嫌いや公演の出来 によるのでしょうが……)。 さまざなま知識や薀蓄(うんちく)はそれか らでもいいのです。 事実、最初に挙げた「また能を観てみたい」 という二人のケースでは、事前にあらすじと見 所を伝え、謡本とその現代語訳を渡していまし た。今では自ら謡本を調べ、二か月に一度のペ ースで能楽堂に通っているようです。 そうした私自身の経験から、当ホームページ では一般の演劇で脚本に当たる(楽譜的要素も ある)、謡本の理解を第一義に考えて「謡の全 文」を掲載し、「現代語訳」と「物語の概略」 に力を入れたつもりです。 |
「謡の全文」には、能の流派として最も古くか らある金春流のものを使用しました。流派によ って多少台詞に違いがある演目もありますが、 当ホームページに収録しているものだけでも、 シテ方五流の主要演目の大半はカバーできるも のと思っています。 また「現代語訳」は「謡曲大観」(佐成謙太 郎著、明治書院発行)を参照していますが、納 得いかない部分は、私の独断的な解釈を優先し ています。従って間違いや勘違いも多いと思い ますので、より良いページにしていくため、お 気づきの点があれば、ご指摘頂けると幸いです。 「演目の特徴」では他の演目との比較とともに、 見所なども加えました。「Data File」は登場 人物の確認などにご利用ください。近々、能面 の解説も入れる計画です。 「舞台写真」は辻井清一郎さんのご協力で実現 したもので、実際の舞台をイメージするのに役 立つでしょう。この場を借りまして御礼申し上 げます。 Tsuneyasu Kawasaki+++ + | ||
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